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試演を終わっての総括
上杉塩一(45) 2003.6.29
『ツアラトストラ・T』のテクストについて
高校・大学以来久しぶりにこの本と出会ってみて、今
までには感じなかった新鮮な感動を覚えた。読みこむ
うちに戯曲のような言葉達が踊るように身体の中に入
ってきて若き日の思い込みから解放された気分になっ
た。やはり年を重ねてきてから見えてくるものがある。
さて、しかしそれをどう演劇のテクストとして生かす
か・・これにはいささか頭を抱えた。このままただ「ツア
ラトストラ」の言葉を吐き続けても思想を伝えるわけで
もなく意味がない。
そのときふと、思い込みの激しかった若き日の自分を
笑い飛ばしてみたくなった。人間はいつも思い込みの
中で生きている。今もある思い込みできっと生きてい
る。わかった振りして何もわかっちゃいないそんな人
間も笑い飛ばしてみたくなった。そう考え始めたとき
に、またひとつ「ツアラトストラ」を通して人々に思想を
伝えようとしたニーチェに近づけたようにも感じた。こう
して一つのコンセプトは出来上がってきた。
脚本のほとんどの部分は「ツアラトストラ」の文章で、
いくつかの言葉をピックアップしてつなげ、それに創作
部分を交錯させながら創っていった。
みきちゃんの存在ははっきりとはしていない。ただ「ツ
アラトストラ」のアンチテーゼとしての存在が必要だと
は思ったし、実に世俗的な超人と対極にある存在で、
しかも理屈にはない本能的な欲望を表すものとしてい
たのかもしれない。しかもそれに翻弄されて勘違いし
ながら自己破滅へと生きていく人間を笑ってみたかっ
た。考えてみると、最近の犯罪を見ているとそうした人
間が増えているようにも思えた。
とりあえず作ってみた、正直そんな感じで終わったか
もしれない。そのくらい余裕のない中で創作してしまっ
た。もっと吟味を重ねたらもう少し深みのあるものにな
っただろうと後悔している。終わってみてもう一度練り
直してみたくなった。もう一度、やってみようと思う。
試演を終えて
人生初の一人舞台。会場に着いてから始まるまでさほ
ど緊張はしなかったが、前日までは時折逃げ出したく
なる衝動に駆られた。逃げないとだけ心に誓い、会場
へと向かった。
自分の番になる。振り返るまで3秒で腹をくくった。実
際には練習時間も足りず、練習場所もなくて、ひたす
ら車の中でぶつぶつと言葉を唱えるぐらいしか出来な
かった。出たとこ勝負ではダメだとわかっていても最初
から最後まで冷静に計算できるわけもなく、出たとこ勝
負の場面が多くなったしまったとの焦りがあった。その
分言葉を吐いた瞬間に突然緊張が走った。
しかし、それもすぐに身体に収まった。言葉が身体か
ら溢れてくる。その言葉と再び出会い、そこで感じたも
のから新たな表現が生まれる。林さんが言っていた意
味を身体で感じていた(本番であったが)。やっている
ときに不思議な空間も感じた。自分を自分の後ろから
眺める自分の目と演じている自分、それから自分を見
つめる多数の目。3つのものを同時に感じ、それが行
ったり来たりする。これが林さんの行っていた観客と自
分の内面を行ったり来たりする感覚か?と思った途
端、逃げていった。みきちゃんの部分に入ったとき
に・・・。ある意味、観客の反応に媚を売ってしまった。
これが最大のミス。後で自己嫌悪に陥ることになっ
た。
脚本に書いていない「みきちゃん」の乱発。書いている
ときはあれほど冷静に最小限でしか入れなかったこと
の意味を忘れ、そこに頼ってしまう自分の底の浅さを
恥じる。
終わってみると、ほんの数秒だったようにも感じたし、
数時間がたっているようにも感じた。
人生初の一人芝居はこうして終わった。大げさかもし
れないが、天と地を味わった。自分の丸裸の姿が見え
た。こらえられない弱さも見えた。そして、演劇の奥の
深さを体感した。改めてこれまで耳に残っている様々
な林さんの言葉が蘇る。
まだまだ演劇という奥深い哲学の扉の前に立っている
状態だ。しかし、この扉を本気で開けてみたくなった。
扉を開けて、1歩でも2歩でも進んでみたくなった。そう
思ったら体中に熱い塊が駆け巡ってくる。幸いに全く
自分の限界を見ようとしない性格だ。おまけに年齢は
その限界の条件とも考えていない。死ぬまでに何か自
分でつかめるといい。
自分と対峙していくことと見る者と共有していくこと。決
して媚を売らず、舞台へと引きずり込んでいく・・そんな
強い力がほしいと思った。
また、いつか・・わたしは舞台に立ちたい。
実験・創作工房 他の試演を見て
上杉塩一
○『ヌード』
見終わってしばらく後も印象が残っている。そういう意
味でもっともビジュアル的におもしろかった。たまねぎ
のような頭と幼児のような衣装、言葉遊びとスローで
転がる動きが不思議な世界を作り出していた。何が始
まるのか期待を持たせる入り方だったと思う。しかし、
それからの展開が単純に思えた。ホッチキスやボール
ペンを武器にするのはいいが、同じパターンの繰り返
しに少し疲れた。何回かあった後、順番に回すのでは
なく突発的な出来事を入れたり何か破壊したりすると
また違ったようになったように思う。
今か今かと思っていたたまねぎ頭が剥ける瞬間、包帯
の顔が見えたのは正直びっくりもしたが残念だった。
剥いてもまたたまねぎ頭、剥いても剥いてもまたたま
ねぎ頭の繰り返しで頭がなくなってしまうとおもしろいと
思っていたり、逆にものすごくふけた老婆だったらおも
しろいと思っていた私にとっては包帯の意味もわから
なかったし、その後につぶやく言葉の意味もよくわから
なかった。後で正しい言葉を見つけていくという解説を
聞いて余計につまらなく思えた。正しいことなんかあり
はしないのだ。演劇をやっているものが正しいものな
どを語ってはいけない。
○『ゴースト』
いかにもゴーストのいでたち、それぞれを縛るテープ。
お互いがお互いを縛るそのしがらみを断ち切るとすれ
ばもっと解放されていいような気がした。逆にゴースト
になった途端に得る自由。布で覆われた現実の全身
から一つ一つを剥ぎ取ってほとんど裸の状態で顔だけ
にマスクをつけているほうがよりその縛るテープの意
味が生きたように思える。
動きだけに重点をおいた試みはおもしろいが、まだ動
きに一つの流れと変化がなく、4人が存在する意味が
伝わってこない。言葉を使わないのは、かなり勇気の
いることだ。そういう意味でよくやったなと感心する。し
かし、作品としてはやはり効果的に印象的な言葉をい
くつか入れると、引き締まったようにも思える。
○『ドール』
グループの中で一番ストーリー性があって、4人の動き
にも変化があり、見ていて飽きは来なかったが、終わ
ってしばらくすると印象は薄いように思えた。もっとイン
パクトの強い場面があったら違っていたように思う。マ
スクを使う意味合いもそれほど感じなかった。ひょっと
したらマスクを顔につけずに腹やお尻につけてみても
おもしろかったかもしれない。体中がマスクでも良かっ
たかもしれない。いや、そういうことよりもまだ一人一
人の持っている声が十分に伝わってこないからかもし
れない。表面を言葉というか音声が流れていったよう
にも思う。
一人の男の心の中を表すのに、後ろで何か動いたり
声を出したりするだけでなく、もっと仕掛けがほしかっ
た気がする。しかし、3つのグループとも関わり合いが
始まるとなんとなくじゃれているように見えてしまうのは
なぜだろう。そこをどう見せていくのかがもっとも難しい
ように思えた。
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