記録 『加害者』
作品の総括
「多重人格」「少年犯罪」「魂の叫び」
「やってみたい事」「興味のある事」「自分を解放する事」を下地として漠然と考
え始めた。
しかし、多重人格といっても私には到底無理な話だった。実感がないし、薄っ
ぺらくなるかもしれないとテーマにしたことを半ば諦めかけていた。その時少
年Aに出会った。
親の前では普通に過ごしているのに、学校や親の見えないところでは散々な
悪事を働いていた。それでも異質な存在として見られることを嘆き悲しむの
に、また同じ事を繰り返す。どちらも本当の彼であるのに彼ではない。外と内
を二重人格として使い分ける術を彼は身につけていたのかもしれない。少年A
の出来事はノンフィクションでもあり、今でもさまざまな仮説が飛び交ってい
る。真犯人はA君ではなく、もう一人後ろについているC君だとか、親が極度の
虐待をしていたとか、していないとか。それでも彼の思ったことや言葉だけは
真実なのだと思ったら、私は彼の言葉を借りて自分を表現したいと思うように
なった。簡単に言うと「ビビッ」ときたのである。それに加え、A君関係なしで考
えてた構成とA君がやったことが妙にマッチしすぎたのにも運命を感じたから
かもしれない。
元々A君は動物を大事にしてる子だったらしい。捨て犬や亀を拾って飼ってい
たりしていた。しかしある日、犬が死に、母よりも大好きだった祖母を失った時
少年の心が崩壊した。心のよりどころを一気に両方なくしてしまった。
虚無と絶望の中で彼は考えた。「死」となんなのか、「生」となんなのかと。大切
なものを守れなかった自分の弱さに悲嘆し、その時彼は廃人と化してしまった
のかもしれない。だから「生きている」実感を得るために、自分の中に神を想
像(創造)し、自分より弱い猫を殺すことによって、自分の手の中に「命」が委
ねられているのがとても幸せだったのだろう。「本能」と「理性」の間で彼は苦
悩した。世間体を気にする母親、子供に無関心な父親、冷ややかな目でみる
友人、先生。異常だと思いつつも欲望を抑制する事が出来ない自分。多少の
違いはあれど、私の中でA君と私がシンクロした。
そして気づいた。誰でも犯罪者になれるのだと。一線を越えるか越えないかだ
けなのだ。とても簡単なようでとても難しい。だから誰しもが多重人格であり、
誰しも「心の闇」は持っているのだ。だから少年Aを演じるわけではなく、A君の
言葉を引用するだけで、一人の人間として皆に訴えたかった。だから自分的
には性別を意識していなかったし、男っぽさと女っぽさを持ち合わせていたか
った。猫殺しはA君の中で序章に過ぎなかった。発狂していく過程と異質なマ
イムマイムを使うことによって、A君の狂気の沙汰と彼が殺人のきっかけとな
ったバモイドオキ神の儀式を表したくもあり、異質の中の異質という林さん独
特の考え方を用いて化学変化を試してみたかった。
今回のモノプレイは自分自身にも、A君に対しても思い入れの深い作品となっ
た。逆に今思えば、この時私自身も私の中の「魔物」と闘っていたために、私
の感情のみが先走っていて醜いものになったかもしれない。それでも「今」の
私だからできた作品だと思うので、何ヵ月後にやったらまた違う作品になって
いるだろう。
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