『サイレンス』創作リポート
酒井忠親

二年ぶりの藤野での合宿。合宿という場での濃密な練習と時間の時間の流 れがここにはある。新宿の稽古場とは異なるホールという広い空間。今回は2 日目からの参加となった。

午前中は基礎T。2人1組の相手を変えながらのファリファリ。入好さんとやっ たときが、変化に富みたのしめた。彼女が舞台での経験をはじめ、個がとても 強くなっていることを実感できた。若者の成長はすばらしい。続いて、基礎T の発展、ホールという広い空間を生かし、遠く離れた相手を意識しながら、な おかつ周りの様子も視野に入れながら「おい、すばらしいわ」の基本テクストを 駆使していく。周りで起きている言葉の力の強さを考えながら自分たちの言葉 かけも変化していく。これだけの空間があるから、思うように動けるし、またい くつものペアと交差していくスリルがある。やがて、言葉のかけ合いが絶頂を 越えると、林さんがペアの相手を変える指示を出す。様々な人間模様を描い ていくかのようだ。やることは、通常とさほどちがっていなくてもみっちりやった 分、充実感がある。

午後のリハを終えた後、6時から9時まではFUを中心に進められる。Fサー クルという荒芸でぐっとエネルギーを高めた後のFエチュード。順序もはずれ、 メンバーも次から次へ増え、テンションを上げる中、若林さんの糸地獄のテク ストを受け、自分でも予期しない言葉が出てきた「糸 糸をからめ 人 人を絡 める」ほとんど即興のCと化していた。
 
ラストに近い展開での江口さんとのかかわりも、いま起きていることがどんど ん発展していく展開が心地よい。この瞬間も午前のワークがあったからこそ出 現してくるように思う。やはり、合宿ならではの醍醐味だ。試演会としての上演 も2年ぶりとなり、3日目の発表に向け、徐々に緊張が高まっていく内容のあ り方も合宿という名にふさわしい。今回は、例年より人数は少ないがその分、 ワークで回る出番も増え、手ごたえの感じられる2日間だった。
          


『サイレンス』 自分の作品を振り返って
このモノプレイは、当初、身体の変化と現代の大衆の時代を表そうとの試み だった。リハのあと途切れる印象を受けたとの感想を受け、身体がどう捉えら れてきたかの一つのテーマで構成した。

<シーン1>は、明治期の文明開化により我々の農耕を主体とした身体は軍 隊と学校教育を通じ、人為的に加工されたことを意図した。その際、学校では 行進できる人間を育成すべく、行進のリズムの文部省歌が導入された。くしく も、「日の丸」が文部省歌第一号ということからモノプレイの効果音として取り 入れた。

<シーン2>は椅子をくくぐって越えたことが、現代に通じるタイムカプセルを 表し、そこでは、応答できる身体ではなく、<無反応な身体>と化していること や、<浮遊する身体>をイメージして構成した。ラストの昨年の町田で起こっ た事件を読んでもらったことは、この事件を知ったTVニュースで、30分以上 に渡る悲鳴を聞いる人がいながら、単なる喧嘩だと思ったと語ったことに衝撃 を受けたからだ。もはや、無反応を通り越し、我々の身体は周囲の出来事に 感知しない無感覚な身体へと移り変わってきてしまったようだ。

作品の出来はともかく、今までの作り方以上に構成に目を向けられたように 思う。シーンが決まったら、展開の中でにどうメリハリをつけていくか、さらに追 求していきたい。




『サイレンス』テクスト(作 酒井忠親)
<静かに>
困りますよ  ここは西洋館じゃないですか


♪MD@シャンソンの曲が流れる
<突然止まる>
 
番号をつけられた者達が 13人ずつ 4部族
常に入ってくるところなんですよ

ー足袋の上をなんば風に歩ているー

<行進のように>1、2、1、2、1、2・・・

♪日の丸 (音楽が手に入らない場合は歌詞を読んでください)
しろじに あかく 日の丸 そめて ああ うつくしい にほんの はたは・・・
ー足袋の上を行進のように歩いているー

<ゆったりと>
おいちに さんし おいちに さんし

<静かに>
身体がきしむ 股関節がきしむ 

<やや大きく> 
寒さのせいなのか 歳のせいなのか 時代のせいなのか 

<また 小さく>
命がきしむ


<オレスト風に>
さあ、今の台詞をやってくれ。俺が言ってみせたようにさりげなく自然にな。大 抵の役者がやるようにやたらにがなり立てるくらいなら、布告をふれ回る町役 人の方がましだ。また、こんなふうに大げさに手で空を切ったりせず、すべて 穏やかにやるんだぞ。気持ちが高揚して激流となり、嵐となり、あるいは竜巻 のようになるときにこそ、むしろ静かに表現する抑制が必要だ。

抑制 抑える 抑える・・・


<静かに>
会議は形だけのものとなり、討論がおこることもない。質問をすることでお茶 をにごすばかり 多くのものは異にそぐわない時は、ただ早く過ぎろとばかり に下をむくばかり、相手にうなじを差し出す服従の身体になっていることも知ら ずに


<たんたんと時間をかけて>
2005年11月11日午前5時半ごろ、東京都町田市本町田のアパートの自室 で、都立町田工業高校1年の古山優亜さんが首などから血を流して倒れてい るのを帰宅した母親が発見し、110番通報した。古山さんはこの時既に死亡 しており、警視庁捜査1課と町田署は、殺人事件の可能性もあるとみて捜査 を開始、その日のうちに同じ高校に通う16歳の男子生徒の取調べを行い、 殺人容疑などで逮捕状を請求した。取り調べの中で、男子生徒は優亜さんの 殺害を認めているとのことである。証言者の話によると前日夕方、30分にわ たる乱闘の音が聞こえた。親子喧嘩だと思い警察に通報しなかった。


平成19年2月21日朝日新聞朝刊一面
病院向け公的融資削減 
ああ 準備が始まっちゃった。
ほら、ごらんよ やっぱり始まっているんだよ。


♪MDA  
ー出演者が包帯を巻き始めるー
めんどくさい めんどくさい めん どくさい どくさい 独裁
 
END

おっと こんどは コスチュームを変えたぞ 
黒だ 黒だ 周りの色に合わせた 周りにとけ込んだぞー
 
ボーディーブローのように効いてきた 
どうする オーディエンス またも 沈黙かー



トップへ
戻る